学割乗車券とは?「学割」vs「トクトクきっぷ」
JRや一部私鉄には「学割乗車券」という制度があります。端的に言うと、「学生や生徒・児童がJRを利用する際には運賃を2割引しますよ」という制度で、お世話になっている学生も多いかと思います(当然私も帰省の度にお世話になっています)。
今回はそんな「学割」について調べてみました。
「学割」の概要
「学割」の正式名称は「学生割引普通乗車券」と言います。
(学生割引普通乗車券の発売)
JR東日本:旅客営業規則>第2編 旅客営業 -第2章 乗車券類の発売 -第2節 普通乗車券の発売より
これによると、「指定学校の学生又は生徒」が、「片道100キロ以上JRを利用する際」に学割が適用され「運賃が2割引」となる、されています。また、乗車券を発売してもらうには「学校学生生徒旅客運賃割引証」なるものを提出しなければならない、と書かれています。
これについて1つずつ見ていきます。
「指定学校」とは
指定学校に入るのは一般的な「学校」はほぼ含まれます。この辺りは「学校・救護施設指定取扱規則」に書かれています。法律みたいに難解な文章ですが、読みたい方はコチラから(PDFファイルが開きます)。
これはJR西日本のものですが各社にも同様の規定があるはずです。意外なところとしては幼稚園が含まれているところ、でしょうか。幼稚園児は基本的に運賃無料なので学割が必要なタイミングが分からないのですが...。
学割を使えるのは100キロ以上の旅程の場合のみ!
学割乗車券は「片道の営業キロが100キロメートルを超える区間を旅行する」場合のみに発行できます。また、SuicaなどのIC乗車券利用時は適用できません。必ず事前に窓口で学割乗車券を発行してもらう必要があります。同様の理由により、無人駅から乗車する場合も事前に窓口のある駅で学割乗車券を購入する必要があります。
学割証とは
私の通う島根大学では機械で自動で発行できます。
有効期限は発行から3カ月以内です。島根大学では発行枚数に制限はありませんが、計画的に使うよう求められています。以前は「年10枚まで」という制限があったそうですが、就活等で頻繁に学割を使う人から「制限を緩和して欲しい」という要望が出て廃止に至ったそうです。
恐らく他大学等ではまだ枚数制限がある学校もあると思いますので恵まれている方だと思います。
高校時代は学割証の申請用紙を事務室でもらってきて記入・提出し、申請目的などを審査した上で発行されていた記憶があります。なのでおいそれと旅行には使えない、という印象でした(これも学校の方針によるのだと思います)。
割引になるのは乗車券のみ
学割乗車券を使うときに注意したいのは、「2割引」になるのは普通乗車券のみ、という点です。つまり特急券や指定席券は割引にならず、通常の料金で購入する必要があります。上に挙げた写真の場合、上野~仙台で学割を使い乗車券と新幹線の特急券を購入しました。
- 上野~仙台:学割乗車券4,750円+特急券5,050円=9,800円
きっぷにはこう記載されています。学割を使わずに乗車券を購入した場合、同区間の運賃は5,940円です。これを2割引すると5,940×0.8=4,752円、となります。JRは10円未満の端数は切り捨てですので4,750円となり、辻褄が合います。一方で特急券は割引はなく、通常の指定席特急券と同じ5,050円。
つまり、全体としては本来10,990円だった運賃が9,800円に割引されたことになり、割引率は1割程度にとどまる、ということになります。このように、全体に占める特急券の割合が大きい場合、学割はあまりおトクではない、ということです。逆に特急なんか乗らないよ、という場合は基本的に額面通り2割の割引を受けられます。
学割はおトクなのか?
ここまでで「学割乗車券」とは何ぞや?について説明してきましたが、実際に学割はおトクな割引制度なのか、を検証していきます。普通に(割引なしの)きっぷを大人が買った場合よりも安くなるのは明らかですが、普通にみどりの窓口で購入可能な「特別企画乗車券」、つまりJR各社で「おトクなきっぷ」と案内されているものと比較してみます。
※料金等は2017年4月現在です。料金等は変更される場合があります。
その前に学割と各種「おトクなきっぷ」のそれぞれのメリットデメリットを挙げておきます。
学割のメリット
- 普通乗車券と同じように払い戻し・変更などができる
- 会員登録などが不要(当然年会費なども不要)
- クレジットカードがなくても購入できる
- 直前の購入も可能
学割のデメリット
- 事前に学割証を準備する必要がある
- 各種「おトクなきっぷ」と併用不可(往復割引除く)
- 乗車券以外(特急券など)は割引されない
おトクなきっぷのメリット
これは殆ど、学割のメリットがおトクなきっぷのデメリット(その逆も然り)、という形になっています。
- 時に非常に(学割をはるかに上回る)お得なきっぷが販売されている場合がある
おトクなきっぷのデメリット
- 予約できる期間が決まっている場合がある(早特など)
- ブラックアウト期間が設定されている場合がある(繁茂期など)
- 席数が限定されている場合がある
- 会員登録(時に有料)やクレジット決済が必須の場合がある
- 往復購入が前提のきっぷが多い(片道で利用できるものは少ない)
では、実際に各区間を比較してみたいと思います。なお、各種「往復きっぷ」や往復割引は片道当たりの値段を表示しています。
東京~新大阪
まずは東京~新大阪間の東海道新幹線。
東京~新大阪(指定席利用) | |||||
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運賃種別 | 列車名 | 価格(片道) | 運賃 | 特急券 | 実質割引率 |
通常運賃 | のぞみ | 14450 | 8750 | 5700 | - |
ひかり・こだま | 14140 | 8750 | 5390 | - | |
学割 | のぞみ | 12700 | 7000 | 5700 | 12% |
ひかり・こだま | 12390 | 7000 | 5390 | 12% | |
ぷらっとこだま | こだま | 10500 | - | - | 17% |
学割+e特急券 | のぞみ | 11050 | 7000 | 4050 | 24% |
これを見ると、学割の実質割引率は1割台前半となっています。特急券がお高いのでこんなもんかな、という印象。やはり東海道新幹線は割引きっぷが少ないです。つまり、相対的に学割の割安感が目立つ区間となっています。最も割引率が高くなるのは乗車券を学割で購入して「EX予約」で「e特急券」を予約する方法です。ただ、EX予約を使うにはJR東海のクレジットカード「JR東海エクスプレス・カード」、JR西日本の「J-WESTカード」、JR東日本の「ビューカード」に入会の上、年会費1,080円の「エクスプレス予約」の会員登録する必要があり、ハードルが高いです。
ただし、年1回以上の利用で年会費無料のビックカメラSuicaカードでエクスプレス予約を使う場合(ビュー・エクスプレス特約)には、年間維持費がエクスプレス予約の年会費(1,080円)のみになるため、東京~新大阪を往復すれば学割よりも結果的におトクになります。
故に、東京~新大阪を年1往復以上する学生にとっては、学割乗車券とエクスプレス予約の合わせ技が最も安くなります。
ちなみに、「ぷらっとこだま」は「前日までの予約が必要」、「こだま号の指定列車・座席のみ利用可」など、様々な制約がある分格安料金になっている「募集型企画旅行商品」です。JR東海のグループ企業であるJR東海ツアーズが販売しています。正確には「きっぷ」ではありませんが、同区間で使える貴重な格安きっぷであるため比較のため掲載しておきます。
「ぷらっとこだま」についてはこちら
東京~仙台
続いて北に向かって東京~仙台で比較。
東京~仙台(指定席利用) | |||||
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運賃種別 | 列車名 | 価格(片道) | 運賃 | 特急券 | 実質割引率 |
通常運賃 | はやぶさ | 11200 | 5940 | 5260 | - |
やまびこ | 10890 | 5940 | 4950 | - | |
学割 | はやぶさ | 10010 | 4750 | 5260 | 11% |
やまびこ | 9700 | 4750 | 4950 | 11% | |
モバイルSuica特急券 | はやぶさ | 9970 | - | - | 11% |
スーパーモバトク | やまびこ | 8960 | - | - | 18% |
モバイルSuica特急券を使うと1万円を切ってきます。学割だと速達型の「はやぶさ」の場合は1万円を超えてしまいますが、「やまびこ」など他の種別だと1万円を切ります。「スーパーモバトク」は「スーパーモバイルSuica特急券」の略で、モバイルSuica特急券よりも割安になっていますが、「はやぶさ」の設定がありません。朝晩だと「やまびこ」等でも設定されていない場合があります。
モバイルSuica特急券やスーパーモバトクを使うには当然ですがモバイルSuicaが必要になります。カードタイプのSuicaでは使えません。また、モバイルSuicaにクレジットカードを登録する必要があります(モバイルSuica特急券は、Suica残高から支払うのではなく、登録したクレジットカードから支払うため)。
意外と割引率自体はそんなに高くありません。ちなみに、先日上野~仙台で東北新幹線を利用したときは、上に載せた写真のように学割乗車券&特急券の組み合わせで予約しました。
東京~松江
続いて、個人的に気になる松江絡みの区間を...。
東京~松江(指定席利用) | ||||||
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運賃種別 | 列車名 | 価格(片道) | 運賃 | 特急券 | 実質割引率 | 特記事項 |
通常運賃 | のぞみ、やくも | 20190 | 11990 | 8200 | - | |
ひかり、やくも | 19670 | 11990 | 7680 | - | ||
通常運賃(往復割引) | のぞみ、やくも | 19170 | 10970 | 8200 | 5% | |
ひかり、やくも | 18650 | 10970 | 7680 | 5% | ||
学割 | のぞみ、やくも | 17790 | 9590 | 8200 | 12% | |
ひかり、やくも | 17270 | 9590 | 7680 | 12% | ||
学割(往復割引併用) | のぞみ、やくも | 16970 | 8770 | 8200 | 16% | |
ひかり、やくも | 16450 | 8770 | 7680 | 16% | ||
のぞみ早特往復きっぷ | のぞみ、やくも | 15430 | - | - | 24% | 東京方面のみ設定 |
東京往復割引きっぷ | のぞみ、やくも | 17895 | - | - | 11% | |
学割+往復割引+e特急券 | のぞみ、やくも | 16980 | 8770 | 8210 | 16% | 「やくも」は通常の特急券 |
東京~松江間は片道の営業キロが600キロを超えますので、往復で乗車券を購入すれば往復割引が適用され運賃が1割引になります。学割は通常、他の割引制度と併用できませんが、往復割引のみ例外です。つまり、これら2つを併用して割引適用する場合、片道運賃を1割引した上で、さらに学割を適用して2割引することになります。単純計算で28%の割引となります。この2つは窓口で普通に買える乗車券ですので、忘れずに覚えておきたい割引です。
全体での割引率で見ると、「のぞみ往復早特きっぷ」の割引率が最大となっています。24%の割引率ですので、これまで見てきた東海道新幹線区間や東北新幹線区間よりも高い割引率となっていることが分かります。これにはやはり航空機との競争、という状況が深く関わっていると思われます。この「のぞみ往復早特きっぷ」は「おトクなきっぷ(トクトクきっぷ)」の一種な訳ですが、これはみどりの窓口で誰でも購入できるタイプのおトクなきっぷです。ただし、「早特」という名前の通り、発売期間に制限があり、乗車日の21日前~7日前まで予約ができます。
ただ、モバイルSuica特急券やEX予約と違い、誰でも購入できる割引きっぷが最安値、となっているのは嬉しいですね~。
そして、意外に健闘したのが往復割引&学割&e特急券のパターン(岡山~松江の「やくも」特急券は通常購入のため乗継割引適用なし)。学割よりも高くなってしまいますのであまり使う方はおられないかもしれませんが、EX予約のポイントプログラム「グリーンプログラム」のポイント加算ができますので、EX予約の会員の場合はこちらの利用も十分考えられます。
※グリーンプログラムとは、東海道山陽新幹線におけるマイレージ制度のようなもので、EX予約で購入したきっぷであれば距離ごとにポイントが加算されるものです。貯まったポイントはグリーン車へのアップグレードに使うことができます。
松江~新大阪
これは松江周辺の方は必見です。なんだかんだ関西はよく行く機会がありますので(人によっては広島以上に)。知ってる人と知らない人の違いが最も出る区間だと思います。
新大阪~松江 | ||||||
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運賃種別 | 列車名 | 価格(片道) | 運賃 | 特急券 | 実質割引率 | 特記事項 |
通常運賃 | のぞみ、やくも | 10810 | 6260 | 4550 | - | |
さくら、やくも | 10600 | 6260 | 4340 | - | ||
学割 | のぞみ、やくも | 9550 | 5000 | 4550 | 12% | |
さくら、やくも | 9340 | 5000 | 4340 | 12% | ||
阪神往復割引きっぷ | のぞみ、やくも | 6945 | - | - | 36% | 山陰発のみ設定 |
阪神往復早得きっぷ | のぞみ、やくも | 5915 | - | - | 45% | 山陰発のみ設定 |
こだま&やくも指定席往復きっぷ | こだま、やくも | 6925 | - | - | 35% | 京阪神発のみ設定 |
目から鱗が落ちる、とはこのことでしょう。学割をはるかに上回る高割引率のトクトクきっぷが発売されています。
「阪神往復割引きっぷ」は当日まで購入可、「阪神往復早特きっぷ」は乗車日の21日前から7日前までの発売です。当然「阪神往復早特きっぷ」の方が割引率が高くなっています。
割引率は驚愕の45%で片道当たり5,915円。しかも「のぞみ」、「やくも」の普通車指定席が使えます。学割だと「ひかり」「こだま」「さくら」利用でも9,340円(割引率12%)ですから、ここまで安いと学割を使う理由がありません。当日購入でも「阪神往復割引きっぷ」で片道6,945円(36%)で大阪へ行けます。
というより、通常の片道運賃が6,200円ですから、それよりも安い価格で特急&新幹線を使える、というのは安すぎます...。
これにはやはり競争環境が影響していると思われます。東京~松江での競争相手は航空機(ANA、JAL)ですが、大阪~松江の競争相手は高速バスです(一応航空機もありますが)。つまり、高速バスに合わせて値下げをしている、と言えます。所要時間は圧倒的にJRの方が速いとは言え、乗り換えが必要ということもあり、バスに対し圧倒的な立場に立てない状況があるようです。
ちなみに、現在の新大阪~松江の高速バスの所要時間&運賃はこのようになっています。
- 高速バス:5,250円、5時間半前後
- JR(阪神往復早特きっぷ):5,915円、3時間半前後
ただ、一つ残念なのが、関西方面からのおトクなきっぷが少なくなっていることでしょうか。JRおでかけネットでも、京阪神発山陰(出雲、松江、米子)行きのおトクなきっぷは表にも載せている通り「こだま&やくも指定席往復きっぷ」しかヒットしません。
もし、山陰発と同等の割引率のあるおトクなきっぷがあれば観光客を呼び込みやすくなるのにな~、と地元住民としてすごく残念に思います。「高速バスとの競争」という環境は山陰発でも京阪神発でも同じですから。
まあ、私としては大阪まで往復1万円で行けるのはすごくありがたいですが。
学割を使って旅に出よう!
ここまで学割のメリット、デメリットなどを書いてきました。今回いろいろ調べて感じたのは、「思い付きで旅に出たいとき、学割は非常に有効なツール」である、ということです。学割であれば各種おトクなきっぷのように早めに予定を決めて予約する、ということをする必要はなく、「思い立ったが吉日」とみどりの窓口で学割乗車券を購入することができます(学割証は必要ですが)。
私は旅に出たいときにすぐ旅できるよう、常に学割証を1枚財布に入れています。本来学割証は「必要なときに必要なだけ」が原則ではありますが、ほとんどの場合期限切れまでに使っているので、特に問題はないかと思っています。
皆さんも、学割やおトクなきっぷを上手に使って旅を楽しんでみませんか?
きっぷを買うときに使う「みどりの窓口」では、もちろん各種クレジットカードも使えます。私がおススメする学生向けクレジットカードはこちらです。みどりの窓口でカードを使わないのはもったいないので、まだ持ってない方はカード発行を考えてもよいと思います。